従来の痔の手術と当院の【日帰りでできる痔の手術】
内痔核に対する従来の治療法
保存療法
便通を整える、正しい排便習慣、外用薬使用(症状の緩和) -OTC、医療薬、食事療法-
既存の硬化療法剤の問題点
「脱出」に対しては有効性が低い。(保存療法に抵抗し出血を繰り返す内痔核に臨床適応)
手術の問題点
痔核切除による術後合併症 (疼痛、出血等)により、1~2週間入院が必要とされ、切除創治癒までに平均約1ヵ月かかる。
メスをいれない治療法
従来の痔核治療の基本は手術治療です。
しかし、患者様のなかには、肛門にメスをいれることなく治療することが可能な患者様がおられます。
そこで、当院では2007年よりジオン注硬化療法を導入いたしました。
また、諸事情により入院できない方、あるいは入院を希望されない方のため、当院では局所麻酔、局所麻酔+静脈麻酔併用もしくは腰椎麻酔を使用して、日帰り手術を行っています。
ジオン硬化療法(ALTA療法)とは?
ジオン注による痔核硬化療法(ALTA療法)とは、脱出をともなう内痔核にジオン注を注入して痔に流れ込む血液の量を減らし、痔を硬くして粘膜に癒着・固定させる治療法です。
従来の手術法と異なり、痔核の痛みを感じない部分に注射するので術後の出血や肛門痛などの症状はほとんどありません。
ジオン注の有効成分は硫酸アルミニウムカリウムとタンニン酸という成分から構成されます。
硫酸アルミニウムカリウムは、出血症状や脱出症状をすみやかに改善する作用を持ちます。
一方、タンニン酸は、硫酸アルミニウムカリウムによる過度な急性炎症を抑制し、2次的な組織障害を軽減する働きを担っています(下記図)。
ALTA療法の作用機序
ジオン注の有効成分である硫酸アルミニウムカリウム水和物は、痔核内投与により急性炎症を惹起する。
その炎症修復反応である肉芽形成を経た線維化により、脱出した痔核が硬化・退縮する。
また、投与早期には、硫酸アルミニウムカリウム水和物の血管透過性亢進作用により血液濃縮が生じ、痔核局所の血流量が減少する。
その結果、速やかに出血症状が改善する。
一方、タンニン酸は、硫酸アルミニウムカリウム水和物による過度な急性炎症を抑制し、2次的な組織障害を軽減する働きを担っている。
ジオン注の注意点
ジオン注の適応は脱出を伴う内痔核であり、血栓性外痔核・かん頓痔核・裂肛・痔ろうは禁忌です。
ジオン注硬化療法の治療適応は内痔核ではありますが、長時間経過した内痔核の一部やポリープを伴うものには使用しても効果が認められません。
もちろん外痔核にたいしても使用できません。
そのため最近ではジオン硬化療法と結紮切除術を併用して治療するケースも多いです。
従ってすべての痔核に対してジオン注の治療効果が高いわけではないので、一度診察してから治療方針を決定させていただきます。
肛門周囲への局所麻酔を行い、四段階注射法の手順に従ってジオン注適正容量を1つの痔核に対して4ヵ所に分割して投与します(下記図)。
四段階注射法と治療効果
ALTA療法のメリットとして治療中および治療後に疼痛を認めない。
複数の痔核がある場合には、それぞれに投与します。
投与後しばらく安静にする必要があります。
- 第1段階:痔核上極部粘膜下層
- 第2段階:痔核中央部粘膜下層
- 第3段階:痔核中央部粘膜固有層
- 第4段階:痔核下極部粘膜下層
ジオン注射における合併症としては、前立腺炎・副睾丸炎・睾丸炎、壊死・出血、肛門部疼痛、硬結、直腸筋層壊死、直腸狭窄、痔核の残存、肛門狭窄などが一般的ですが、適切な処置・手順により合併症の発症率は低いといわれてます。
ジオン注硬化療法のメリットは術翌日、
そして、経済負担も少なく、早期の社会復帰が可能です。
当院では日帰り手術も行っております。
しかし、デメリットとして特有の副作用が生じる可能性があります。
軽度の副作用として肛門周囲の腫れや、便秘や下痢などの排便異常をきたすケースがしばしばあります。
また重度の副作用として、非常に稀ですが術後の出血、肛門狭窄や睾丸炎などがあります。
したがって治療後に症状がよくなったからといって治療が終了するのではなく、しばらく定期的な診察が必要です。
目安としては術後一か月を経過した場合は、一月に1回の受診が必要です。
また、従来の手術治療と比べて1年後の再発率は当院では約5%です。
再発した場合には再発時期と再発形式により、再度硬化療法がおこなえる場合と、切除手術が必要な場合があります。
したがってジオン注硬化療法は非常に患者様の負担が少なく良い治療ですが、決して魔法のお薬ではありません。
手術前に十分説明したうえで、患者様に納得して治療を受けていただくことが大切です。
ALTA療法の位置付け
内痔核において実際に行われている治療について簡単にまとめました。
(注:「Goliger分類の○度には、この治療法」とはっきりした基準があるわけではないので、軽度→重度という表記にしました。)
- 軽度の痔核については保存療法が基本です。症状がひどくなるに従い、外来処置、手術といった治療法へとすすみます。重度の内痔核では,主に手術による治療が一般的です。
- ジオンはこれまで手術しか適応のなかった重度の内痔核への効果がみとめられおり、患者さんにとって手術以外の選択肢を増やすという新しい薬剤です。
ALTA療法+LE併用療法
2007年より患者様のニーズに応えるべく低侵襲治療であるジオン注治療を導入いたしました。
当初はALTA療法の全手術数に占める割合は少数でしたが、年々ALTA療法が増加し2011年の1年間では全痔核手術のうちALTA療法の占める割合は約65%まで増加しました。
ALTA療法の治療内容も患者様毎の病状(罹病期間、痔核の器質化有無、症状、過去の治療経緯など)によって異なります。
ALTA療法のみで治療を完結する患者様とALTA+LE併用療法に分類されます。
ALTA+LE併用療法は主にB群とC群 (下記図)の手術法を当院では選択しています。
ジオン(ALTA)+結紮切除術(LE)併用
当院ではBもしくはCを採用しているが、あくまでも基本はALTA単独療法で患者の希望がある場合は併用療法を施行。
まとめ
どの治療法がよいのかは患者様の病状により異なりますのでまず一度受診することをお勧めします。
以上を総括しますと、痔核とくに内痔核の治療に関しましては、できるだけ早期の肛門科を受診していただき、適切な診断のもと患者様のニーズにそった低侵襲治療を選択することが大切です。
当院の肛門疾患日帰り手術総数や治療実績は「診療実績・統計」のページをご覧ください。